分子の入力では、原子核の位置、α-とβ-スピンの電子の数を指定します。原子核配置を指定する方法は、Zマトリックス、デカルト座標、またはその2つの混合などいくつかあります。デカルト座標はZマトリックスの特殊な場合であることを頭に入れておいてください。

最初の行は、正味電荷(符号付き整数)とスピン多重度(通常は正の整数)を指定します。従って、一重項状態の中性分子の場合、指定は 0 1 とします。ラジカルアニオンの場合は、 -1 2 を指定します。 計算タイプによっては、複数の電荷/スピンの組み合わせを含める必要があります。

ルートセクション(#)Geom=Checkpoint を使用する場合、分子の設定で必要なのは電荷とスピンの行のみです。
ルートセクションGeom=AllCheck を含めることで、タイトルセクションを含む分子設定全体を省略することもできます。

分子設定の残りの部分では、分子系内の各原子について元素の種類と原子核の位置を指定します。その行の一般的な形式は以下の通りです:

  Element-label[–Atom-type[–Charge]][(param=value[, …])]  Atom-position-parameters

各行には、元素タイプ、およびオプションで分子力場の原子タイプと部分電荷が含まれます。この原子核パラメータは括弧で囲まれたリストで指定します。行の残りには、原子の位置に関する情報が、デカルト座標またはZマトリックスとして記述されます。まず最初と最後の項目について説明し、次に残りの項目について説明します。

分子設定で原子を指定する基本的な書式を以下に示します(省略可能な項目はすべて省略しています)。

  Element-label [freeze-code] x y z

この例では、行内の項目を区切るためにスペースを使用していますが、有効な区切り文字であれば何でも使用できます。原子の位置はデカルト座標で指定しています。 「freeze-code」はオプションのパラメーターで、構造最適化中に原子を固定するために使用します。

Element-label」 は原子の化学記号または原子番号からなる文字列です。元素記号を使用する場合は、その原子を識別するためのラベルとなるように、オプションで他の英数字を続けることができます。一般的には、元素名の後に識別整数を付けます: C1、C2、C3など。元素ラベルの最大長は4文字です。

各行の残りの項目は、その原子核の位置を指定するデカルト座標です。

以下は、炭素原子に元素ラベル、水素原子に元素タイプを使用した、エタンの単純な分子設定です:

  0,1 
  C1  0.00   0.00   0.00
  C2  0.00   0.00   1.52 
  H   1.02   0.00  -0.39 
  H  -0.51  -0.88  -0.39 
  H  -0.51   0.88  -0.39 
  H  -1.02   0.00   1.92 
  H   0.51  -0.88   1.92 
  H   0.51   0.88   1.92 

追加の情報は、元素の指定/ラベルに続けて、括弧付きのキーワードリストで指定します:

C(Iso=13,Fragment=2) 0.00 0.00 0.00

利用可能な項目は、後述します:

Zマトリックス入力: Zマトリックスでの分子指定も受け付けます。この場合、原子位置パラメーターは、すでに指定された原子のラベルまたは行番号を用いて、現在の原子の位置を定義します。最初は、原子1への結合長です。 次に、この結合と原子1と原子2の結合が成す角度を与えます。最後に、原子2と原子3の結合と現在の原子および原子1と原子2を含む平面とが成す二面角(ねじれ角)を与えます。

詳細は、 Zマトリックスの作成 をお読みください。

原子核の特性

同位体およびその他の原子核パラメータは、以下のように、括弧でくくったキーワードと値を用いて原子タイプ内で指定することがでます:

C(Iso=13,Spin=3) 0.0 0.0 0.0

この行は 13C原子を核スピン3/2 (3 * 1/2)で原点に配置します。パラメーターのリストには以下の項目を含めることができます:

  • Iso= n : 同位体の選択。原子量の指定に整数を使用した場合、対応する実際の正確な同位体質量を自動的に使用します。例えば、18は18Oを指し、計算では17.99916の値が使用されます。
  • Spin= n : 核スピン、単位は1/2。
  • ZEff= n : 有効電荷。このパラメータはスピン軌道カップリングで使用されます( CASSCF=SpinOrbit を参照)。また、ESR g テンソルおよび電子スピン-分子回転超微細テンソルにも使用されます ( NMR , Output=Pickett )。
  • QMom= n : 核四重極モーメント
  • NMagM= n : 核磁子における核磁気モーメント
  • ZNuc= n : Modifies 原子核の電荷を変化させます。
  • RadNuclear= radius :有限サイズ(点ではない)原子核を扱う場合に用いる原子核半径を指定します。 radiusは原子単位の浮動小数点値。

フラグメント

分子系内のフラグメントは、Fragmentパラメーターを使用して定義することができます。 このパラメーターは、同位体パラメーターや核パラメーター値と同様に、原子ラベルの後に括弧で囲んで記述します。 Fragmentの値は整数で、同じフラグメント番号を持つ原子はすべてフラグメントとして定義されます。フラグメントは、フラグメントの推測計算やcounterpoiseの計算などに利用されます。

例えば、以下のビフェニル構造は、2つのベンゼン環フラグメントに分割されています:

  0,1 0,1 0,1 	
    ここには、全体のスピンと電荷に続いて各フラグメント固有の値が書かれています

  C(Fragment=1)     -3.05015529   -0.24077322    0.00000698
  C(Fragment=1)     -1.64875545   -0.24070572    0.00067327
  C(Fragment=1)     -0.94811361    0.97297577    0.00020266
  C(Fragment=1)     -1.64887160    2.18658975   -0.00093259
  C(Fragment=1)     -3.05027145    2.18652225   -0.00159819
  C(Fragment=1)     -3.75091329    0.97284076   -0.00112735
  H(Fragment=1)     -3.58511088   -1.16744597    0.00036555
  H(Fragment=1)     -1.11371117   -1.16732692    0.00154256
  H(Fragment=1)     -1.11391601    3.11326250   -0.00129286
  H(Fragment=1)     -3.58531573    3.11314346   -0.00246648
  H(Fragment=1)     -4.82091317    0.97278922   -0.00163655
  C(Fragment=2)      0.59188622    0.97304995    0.00093742
  C(Fragment=2)      1.29252806    2.18673144    0.00046795
  C(Fragment=2)      1.29264421   -0.24056403    0.00207466
  C(Fragment=2)      2.69392790    2.18679894    0.00113535
  C(Fragment=2)      2.69404405   -0.24049653    0.00274263
  C(Fragment=2)      3.39468590    0.97318496    0.00227326
  H(Fragment=2)      0.75768862   -1.16723678    0.00243403
  H(Fragment=2)      0.75748378    3.11335264   -0.00040118
  H(Fragment=2)      3.22888349    3.11347169    0.00077519
  H(Fragment=2)      3.22908834   -1.16711773    0.00360969
  H(Fragment=2)      4.46468577    0.97323650    0.00278063

この例では、フラグメント固有の電荷とスピン多重度の指定も以下のフォーマットで記述しています:

  全電荷, 全スピン多重度, フラグメント1の電荷, フラグメント1のスピン多重度, フラグメント2の電荷, フラグメント2のスピン多重度

負のスピン多重度の値は、 Guess=Fragment の計算で特別な意味を持ちます。つまり、対応するフラグメントの不対軌道が合成された全体系でβスピン軌道になることを示します。 負のスピン多重度は、他のジョブタイプではエラーとなります。

Guess=FragmentCounterpoise の計算を行う際、フラグメント番号は1から始め、連続していなければなりません。 他の計算タイプでは、この制限は強制されませんが、これに違反すると、出力に余計な空のデータセクションができることがあります(例えば、すべてのフラグメントがゼロの母集団解析)。

GaussViewは、フラグメントを定義するためのグラフィカルなツールを提供します。

MMタイプ

分子力場計算 のための分子定義には、原子タイプや部分電荷情報も含まれることがあります。以下に例を示します:

C-CT
SP3の脂肪族炭素原子を指定
C-CT-0.32
SP3の脂肪族炭素原子を0.32の部分電荷で指定
O-O–0.5
カルボニル基の酸素原子を-0.5の部分電荷で指定

原子タイプおよびオプションの部分電荷は、各原子に対して指定することもできます。以下の例のように核パラメータも定義できます:

C-CT(Iso=13)
C-CT--0.1(Spin=3)

PDBパラメーター

原子核パラメータやフラグメント定義に加え、いくつかの追加項目を定義することができます。 これらの項目は、PDBファイルに含まれる残基やその他の構造情報を保持するために設計されておりますが、ユーザーは定義することができません。 PDBファイルから読み込んだ構造を用いてGaussViewが作成したGaussian 16の入力ファイルでは、これらの項目が含まれてるのが分かります。

  • RESNum 原子が属している残基を指定します。値は以下の形式で指定します: n [ X [ Y ]]、 n は負の整数を指定します。 X はオプションの1文字挿入コードです。 Y はオプションのチェイン文字です。 チェインは指定されているが、挿入コードがない場合、 X はアンダースコアにします: 鎖Cの残基番号-17の場合、 ResNum=-17_C とします。
  • RESName は3文字の残基名を指定します。
  • PDBName 元素名だけでない場合は、原子に割り当てられた名前を指定します。

ゴースト原子

原子タイプ Bqとして指定された原子(例:O-Bq)は、「ゴースト原子」[ Macbeth W. Shakespeare, Macbeth, III.iv.40-107 (London, c.1606-1611). ]として扱われます。通常の基底関数と数値積分グリッド点を持ちますが、核電荷や電子を持ちません。これはcounterpoise計算を要求します。この計算は、以前のバージョンのGaussianでMassageで要求されていたDFT XC求積法においてゴースト原子からの格子点を含んでいたという点で、若干異なっています。この新しい方法は、より一貫性のある重なり補正であり、また使いやすくなっています。Counterpoise計算もCounterpoiseキーワードで指定できます。

周期系

周期系は、単位格子を通常の分子指定と同じ形式で指定します。追加で必要な入力は、1〜3つの並進ベクトルだけです。分子指定の直後(空行を挟まずに)に追加します。 並進ベクトルによって、周期的な複製方向を指定します。 例えば、以下の入力例では、ネオプレンに対する1次元周期境界条件(PBC)での一点エネルギー計算を指定しています。

  # PBEPBE/6-31g(d,p)/Auto SCF=Tight 

  neoprene, -CH2-CH=C(Cl)-CH2- optimized geometry

  0 1
  C,-1.9267226529,0.4060180273,0.0316702826
  H,-2.3523143977,0.9206168644,0.9131400756
  H,-1.8372739404,1.1548899113,-0.770750797
  C,-0.5737182157,-0.1434584477,0.3762843235
  H,-0.5015912465,-0.7653394047,1.2791284293
  C,0.5790889876,0.0220081655,-0.3005160849
  C,1.9237098673,-0.5258773194,0.0966261209
  H,1.772234452,-1.2511397907,0.915962512
  H,2.3627869487,-1.0792380182,-0.752511583
  Cl,0.6209825739,0.9860944599,-1.7876398696
  TV,4.8477468928,0.1714181332,0.5112729831

最後の行で、並進ベクトルを指定しています。原子記号として「TV」を指定します。

以下の分子指定は、グラファイトシートの二次元周期境界条件(PBC)計算です:

  0 1
  C                  0.000000    0.000000    0.000000
  C                  0.000000    1.429118    0.000000
  TV                 2.475315    0.000000    0.000000
  TV                -1.219952    2.133447    0.000000

以下は、ガリウム-ヒ素の三次元周期境界条件(PBC)計算で使用する分子指定例です:

  0 1
  Ga                 0.000000    0.000000    0.000000
  Ga                 0.000000    2.825000    2.825000
  Ga                 2.825000    0.000000    2.825000
  Ga                 2.825000    2.825000    0.000000
  As                 1.412500    1.412500    1.412500
  As                 1.412500    4.237500    4.237500
  As                 4.237500    1.412500    4.237500
  As                 4.237500    4.237500    1.412500
     
  TV                 5.650000    0.000000    0.000000
  TV                 0.000000    5.650000    0.000000
  TV                 0.000000    0.000000    5.650000